「うちのマンション、そろそろ大規模修繕の時期なんだけど、設計監理方式と責任施工方式、どっちがいいの?」
管理組合の理事になると、必ずぶつかる問題です。私は沢村健一と申します。都内の築28年・120戸のマンションで管理組合の理事長を2期務め、その間に2度の大規模修繕を経験しました。本業は総務畑の会社員ですが、理事長時代に独学でマンション管理士の資格も取っています。
1回目の修繕では責任施工方式、2回目では設計監理方式を選びました。どちらも経験した立場から言うと、「絶対にこっちが正解」という答えはありません。ただし、判断のための材料はあります。
ネットで調べると「設計監理方式が安心」と書いてあるサイトが多いんですが、それは設計事務所側が発信している情報に偏っている面もあります。逆に施工会社のサイトでは責任施工方式の良さが強調される。ポジショントークを差し引いて読まないと、正確な判断はできません。
この記事では、両方式の違いと選び方のポイントを、できるだけ実務に即した形で整理していきます。理事会での議論の叩き台として使ってもらえればと思います。
目次
そもそも「設計監理方式」と「責任施工方式」は何が違うのか
まず基本的な仕組みを押さえましょう。両者の違いは、ひとことで言えば「設計と施工を分けるか、まとめるか」です。
設計監理方式の仕組み
設計監理方式は、建物調査・改修設計・施工会社選定・工事監理を、施工会社とは別のコンサルタント(設計事務所)に委託する方式です。
流れとしてはこうなります。
- コンサルタントが建物を調査診断する
- 調査結果に基づいて修繕仕様・数量を確定する(設計)
- 確定した仕様で複数の施工会社から見積もりを取る(競争入札)
- 管理組合が施工会社を選定する(コンサルが選定補助)
- 工事中はコンサルが施工品質をチェックする(工事監理)
ポイントは、設計する側と工事する側が別の会社である点。第三者が「この工事は仕様通りに施工されているか」をチェックするわけですから、構造としては透明性が高くなります。
なお、「管理会社元請方式」という第3の方式もあります。管理会社が施工会社を手配するパターンですが、今回はシンプルに設計監理方式と責任施工方式の2つに絞って話を進めます。
責任施工方式の仕組み
責任施工方式は、調査診断から設計、施工、監理までを1社の施工会社にまとめて任せる方式です。管理組合の窓口は1社だけ。設計と施工が同じ会社なので、「こういう直し方をしたい」と思ったときの意思決定が速い。連携ロスが起きにくいのが特徴です。
ただし、施工会社が自分で設計して自分で施工するため、外部のチェック機能は基本的に働きません。管理組合側に一定の目利き力が求められます。施工内容が適正かどうか、見積もりの金額が相場から乖離していないか、自分たちで判断する場面が増えるということです。
メリット・デメリットを比較する
それぞれの方式を表で整理します。
| 項目 | 設計監理方式 | 責任施工方式 |
|---|---|---|
| 施工品質のチェック | 第三者(コンサル)が監理 | 施工会社の自己管理 |
| 工事費の透明性 | 競争入札で客観的な価格比較が可能 | 見積もりの妥当性は管理組合が判断 |
| コンサル費用 | 工事費総額の5〜10%が相場 | 不要 |
| 窓口の数 | コンサルと施工会社の2社 | 施工会社1社のみ |
| 管理組合の負担 | コンサルがリードするため比較的軽い | 施工会社の選定・見積もり精査が重い |
| 工期の柔軟性 | 設計完了後に着工のため工程が長め | 設計と施工が一体なのでスピーディー |
設計監理方式のメリットとデメリット
メリットは明確です。
- 第三者が施工を監理するため、手抜き工事の抑止力になる
- 競争入札を通すことで、工事費の適正化が図れる
- 管理組合に建築の専門知識がなくても、コンサルがサポートしてくれる
一方、デメリットも無視できません。
- コンサルタント費用が別途かかる(工事費総額の5〜10%が目安)
- 設計と施工が分離しているため、工事中にトラブルが起きた際の責任の所在がやや曖昧になることがある
- そしてこれが一番重要な話ですが、コンサル自体が不適切な場合、第三者チェック機能が形骸化する
責任施工方式のメリットとデメリット
メリットはこちら。
- コンサル料が不要なので、その分を工事費に充てられる
- 窓口が1社なので、やりとりがシンプル
- 設計と施工の連携がスムーズで、工期を短縮しやすい
デメリットとしては以下の点が挙げられます。
- 施工会社の見積もりが適正かどうかを管理組合が判断しなければならない
- 外部チェック機能がないため、過剰な工事項目や仕様が入り込むリスクがある
- 信頼できる施工会社を自力で探す必要がある
うちのマンションはどっちを選ぶべきか?3つの判断軸
「で、結局どっちなの?」という話です。私の経験上、判断の軸は大きく3つあります。
軸1:マンションの規模
ざっくりした目安を示します。
- 30戸以下、工事費3,000万円以下の小規模修繕:責任施工方式の方が総費用を抑えやすい
- 50戸以上、工事費5,000万円以上の中〜大規模修繕:設計監理方式の競争入札メリットが効いてくる
たとえば工事費が1億円の場合、設計監理方式のコンサル料は500〜1,000万円程度です。一方で、競争入札により工事費が10〜15%下がるケースも珍しくありません。差し引きで考えると、規模が大きいほど設計監理方式のコスパが良くなる計算です。
小規模マンションだと、コンサル料の占める割合が相対的に大きくなり、「コンサルを入れても入れなくても総額は変わらない」あるいは「入れた方が高くつく」ということが起こり得ます。
もちろん、小規模でも「管理組合に詳しい人が誰もいない」という場合は、コンサル料を払ってでも設計監理方式を選んだ方が結果的に安くつくこともあります。規模はあくまで目安であって、最終的にはほかの要素も含めて判断してください。
軸2:修繕積立金の余裕
国土交通省は「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を公表しており、専有面積あたりの積立金の目安額を示しています。このガイドラインは2024年6月に最新の改訂が行われ、段階増額方式における引上げ幅の目安も追加されました。詳しくは国土交通省のマンション管理に関するページで確認できます。
積立金に余裕があるなら、設計監理方式でコンサルを入れた方が安心です。逆に積立金が不足気味で「1円でも削りたい」という状況なら、信頼できる施工会社を直接見つけて責任施工方式を選ぶのも合理的な判断です。
軸3:管理組合の体制と経験値
理事会に建築の知識を持つ人がいるか。過去に大規模修繕を経験した理事がいるか。この「管理組合側のリテラシー」は意外と大きな判断材料です。
私が1回目の修繕で責任施工方式を選んだのは、当時の理事に建設会社OBがいたからです。見積もりの読み方も現場のチェックポイントも分かっている人がいた。だから外部コンサルなしでも回せたんです。
2回目はその方が引退された後で、理事会に建築の専門家がいなかった。だから設計監理方式に切り替えました。管理組合の「中の人」の顔ぶれで最適解は変わります。
ちなみに「理事会に詳しい人がいなくても、管理会社の担当者がサポートしてくれるから大丈夫」と考える方もいますが、管理会社はあくまで管理業務の委託先であって、修繕工事の監理者ではありません。管理会社にすべてお任せすると、管理会社が推す施工会社に決まりやすく、競争原理が働かなくなる傾向もあります。
設計監理方式を選ぶなら知っておくべき「不適切コンサル問題」
設計監理方式を検討している管理組合に、ひとつ知っておいてほしい話があります。
国土交通省は2017年1月に「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について」という通知を出しました。設計コンサルが関与した大規模修繕工事で不適切な事例が報告されたためです。
具体的にどういう問題かというと、こういうケースです。
- コンサルが自ら調査・設計をせず、特定の施工会社にやらせる
- 競争入札を形骸化させ、あらかじめ決めた施工会社に落札させる(出来レース)
- 結果として工事費や仕様が不当に割高になる
国土交通省は翌2018年5月にマンション大規模修繕工事に関する実態調査の結果を公表し、過剰な工事項目・仕様がないか、同規模マンションと比較して費用が妥当かなど、管理組合がチェックすべき指標を示しました。
つまり、設計監理方式は「第三者チェックがあるから安心」という前提が崩れるケースがある。コンサルを入れれば自動的に安全になるわけではないんです。
この問題が表面化した背景には、コンサルタント業界の構造的な課題もあります。マンション大規模修繕は金額が大きい割に案件ごとの利益率が低い。そこで「施工会社からのバックマージンで稼ぐ」というビジネスモデルに走るコンサルが出てきた。管理組合からすれば「味方だと思っていた人が相手側にいた」という話で、これが一番たちの悪いパターンです。
信頼できるコンサルを見極めるチェックポイント
では、どうやってまともなコンサルを見分けるか。私が2回目の修繕で実際に使った判断基準を整理します。
- 特定の施工会社・メーカーと資本関係がない「独立系」であること
- 一級建築士や建築施工管理技士などの有資格者が正社員として在籍していること(外注丸投げではないか)
- 調査診断から工事監理、アフター点検まで一貫して自社で対応できる体制があること
- 全国マンション改修設計コンサルタント協会(MCA)などの業界団体に加盟していること
- 実績数(受託戸数・対応件数)を公式サイトで公開していること
業界団体への加盟は一定の品質担保になりますし、MCAは設計監理方式の健全な運用を推進している団体なので、加盟企業であれば少なくとも最低限の基準はクリアしていると判断できます。
たとえば独立系の設計事務所で、有資格者が正社員として在籍し、調査から工事監理・アフター点検まで一貫対応できる会社として株式会社T.D.Sのコンサルティング内容をまとめたページが参考になります。受託契約戸数19万戸超の実績を持ち、MCA正会員として活動している設計事務所です。
「どっちにするか」より大事なこと
ここまで両方式の比較をしてきましたが、正直なところ、方式の選択そのものよりも大事なことがあります。それは「パートナー選び」です。
設計監理方式を選んでも、コンサルがハズレなら意味がない。責任施工方式を選んでも、施工会社が誠実で技術力があれば、良い修繕はできる。方式はあくまで「仕組み」であって、その仕組みの中で動く人と会社の質が結果を左右します。
私が理事長として2回の修繕を終えて思うのは、以下の3点です。
- 方式選びで悩むよりも、相見積もりを取る段階での「比較の質」を上げることに時間を使った方がいい
- 管理組合側が最低限の知識を持つことが、どちらの方式でも必須
- 「お任せ」にした瞬間に、コストは膨らむ方向に動く
設計監理方式を選んだからといって安心して放置するのは危険ですし、責任施工方式を選んだからといって施工会社に丸投げでいいわけでもない。どちらの方式でも、管理組合が「当事者意識」を持ち続けることが成否を分けます。
大規模修繕は何千万、場合によっては億単位のお金が動くプロジェクトです。理事になったら面倒だなと思う気持ちはよく分かりますが、ここで手を抜くと、住んでいる全員が長期にわたって影響を受けます。総会で住民から「なんであんな業者に頼んだんだ」と言われるのは理事会です。逆に「いい修繕だったね」と言ってもらえたときの達成感は、理事をやって良かったと思える瞬間でもあります。
まとめ
設計監理方式と責任施工方式は、どちらが優れているという話ではありません。マンションの規模、修繕積立金の状況、管理組合の体制によって最適解は変わります。
改めて判断基準を整理します。
- 中〜大規模マンション(50戸以上)で、管理組合に建築の専門家がいない場合は、設計監理方式が適している
- 小規模マンション(30戸以下)で、信頼できる施工会社のあてがある場合は、責任施工方式でも十分機能する
- 設計監理方式を選ぶなら、コンサル選びに全力を注ぐこと。独立系・有資格者在籍・実績公開・業界団体加盟を判断基準にする
- どちらの方式でも、管理組合側が「丸投げ」しないことが成功の条件
この記事が、これから大規模修繕に向き合う理事の方にとって、少しでも判断の助けになればうれしいです。分からないことは一人で抱えず、専門家の力を借りながら、住民全員のために良い修繕を実現してください。






